2人でいると楽しいこととか嬉しいことは2倍になって、


悲しいこととか苦しいことは2人で分け合って半分になって、


あたし達はそうやっていつも一緒に過ごしてきた。






だから、1人で悲しまないで。
あたしが傍にいるから、我慢しなくていいんだよ。






その日 氷帝の夏が 終わった。






開催地枠として満を持して挑んだ全国大会。
関東大会で負けた青学へ借りを返すんだって
跡部も、忍足も、宍戸も、岳人も、樺地も、長太郎も、日吉も、
もちろんジローだって意気込んでいたのに。

全ての力を出し切っても、青学には勝てなかった。

試合後の皆に何て声を掛ければいいのか、ずっと考えてた。
あんなに頑張って練習したのに。
あんなに毎日努力したのに。

考えれば考えるほど
皆の努力している姿が走馬灯のように甦って
あたしの視界を歪ませていく。



――あたしが泣いてどうするの。



あたしが泣いたってもう何も変わらないのはわかってる。
皆に何か言葉を掛けてあげなくちゃ、何のためにあたしがいるのかわからない。

整列して挨拶を終えた皆がこっちへ向かってきているのは見えているのに、
まだ頭の中が整理出来ずにあたしは立ち尽くしたままだった。

そんなあたしの下へ、金色の髪の彼が駆け寄ってくるのに気付いた。



「…ジ、ロー…?」

っ。こっちこっち!」

「えっ!?」



あたしの手を掴んでジローはニカッと歯を見せて笑うとまた皆の方に向かって走り出す。
その綺麗な金髪が走って起こる緩い風にふわり、と揺れた。

そのままあたしの手を掴んだまま皆に向かってジローは叫んだ。






「みんなー!お疲れッ!マジマジ最高だったC〜!」






ジローがいつも通りのテンションでかけた励ましの言葉。

太陽みたいなその笑顔。
誰もがその瞬間、絶対に目が釘付けになるくらいジローの笑顔はいつも輝いていて。

皆一瞬立ち止まってジローを見たあと、すぐにフッと穏やかに口元を緩めた。

ジローの一言で気が変わったのがわかり
あたしもつられて口元を緩めてしまった。(途端にまた涙が込み上げそうになる)

岳人は笑いながら「お前もマジお疲れっ!」と言って
勢いよくジローに抱きつく。その瞳が涙に揺れていたことに気付いたけど
あたしは何も言わずにその様子を見ていた。



「マジ岳人すごかったC〜!2人の試合メッチャかっこよかったぜ!」

「…!クソクソジロー!泣いたらどうすんだよっ…!」

「もう泣いてんじゃん。」

「うっせーよ!これは汗だっつーの!」

「…本当に泣いてるくせに。」

「何だよヒヨっこ!」

「ヒヨっこじゃなくて日吉です。」



結局我慢し切れず涙を零した岳人にジローは「イシシッ。」と子供のような笑顔を向ける。
後ろから顔を出した日吉はそう憎まれ口を叩きながらも、
ほんの少し目元を赤くしていた。
そんな日吉の肩をそっと叩くと、日吉はあたしを見て珍しく小さく笑って見せた。



「あ〜!これで終わりかぁ、3年間やってきたテニス…!
 ったく、完敗だったぜ…っ!勝ちたかったけど、俺後悔はしてねーやっ。」

「…俺もです。今出せる自分の全てを懸けて負けたんですから…、
 悔いはないですよ。むしろ、清々しいくらい。」

「だよなー!…っ、でもダメだ!やっぱ涙止まんねー!」

「…っ。」



感情を隠さずに着飾らないで泣く岳人は、凄く凄くカッコイイと思った。
日吉はそっと瞳を閉じて込み上げる涙と、気持ちを落ち着けているみたいだった。

嗚咽しながら涙を零す岳人の頭を、
後ろからやってきた忍足がポンポンと叩く。
あたしと目が合った忍足の瞳も涙に少しだけ揺れている気がしたけど、
メガネのせいでよくわからなかった。



「ったく、岳人が泣いとったら俺まで泣けてきたわ。」

「あー!ホントだ、ちょっと忍足泣いてる!」

「気のせいや、気のせい。」



そう言って小さく笑った忍足は、そっとを仰ぐ。



「忍足もかっこよかったぜ、あんなマジになるなんて思わなかった!」

「だよな!俺もあんな侑士ほとんど見たことねーからビビったし!」

「…アホなこと言わんでええから、そこで泣いとる子どーにかしてやり。」

「っ…ぅっ、うぇ…っ」

「オイ長太郎!男のくせに泣くんじゃねぇ!情けねーな!」



ひょっこりと後ろから現れた背の高い彼は、
もうこれでもかってくらい泣きじゃくっていて
その横で宍戸が「チッ、激ダサだぜ!」と言いながら
自分も貰い泣きしそうなのを必死に堪えていた。

きゅ、と噛み締めた唇と震える拳がそれを物語っていた。



「お、俺…っ、先輩達と一緒にテニスが出来て、ホント、ホントよかったで、すっ…!」

「鳳も宍戸もマジかっこよかったC〜!俺もオメー達とテニス出来てよかったー!」

「ジロー、お前、そんな言い方すんな…!」

「そうだぜクソクソ…っ!まだこれからもテニスすんだろ!?」

「まーそうだけどさ!俺らの今年の夏はもう終わっちゃったわけじゃん?
 だから、ここまでの分のお礼!皆ホンットーにありがとな!もマジサンキュー!」

「へっ?」



突然ジローがこっちを向き、握ったままだったあたしの手首を高々と上げて
その無邪気な笑顔を振りまく。

目を丸くしたあたしの頭をポンッと背後から伸びてきた大きな手が撫でた。



「…跡部…?」

「オイ、ジロー。部長である俺を差し置いてに先に礼を言うとはどういうことだ?アーン?」

「え〜だって跡部俺に厳しいじゃーん。それには俺のカノジョだから、ちょっと贔屓しちった!」

「俺がお前に厳しいのはお前が怠けてばっかりだからだよ。
 それにはお前の彼女である前にマネージャーだろうが。なぁ、樺地?」

「ウス。」



跡部はあたしを見てフッと微笑むと、くしゃくしゃと優しく髪を撫ぜ
普段では滅多に聞けないような最高の褒め言葉をあたしにくれた。






「…ま、ジローに先に言われちまったが、お前がマネージャーでよかったぜ。。」

「ホントがマネでよかったー!さっすが俺の彼女!」

「…ジロー、てめぇ俺の話聞いてたか?」






言葉が出てこないあたしの下へと皆が来てくれる。






「ホンマ、よう頑張ってくれたわ。やなかったら俺らのマネは務まらんかったやろうなぁ。
 が俺らのマネでよかったって、俺も思っとるで?」

「俺がジャンプ失敗して怪我してもさ、がすぐ手当てしてくれたからいっつも助かってたんだぜっ?
 ここまで来れたのもお前のサポートがあったからだと思ってるから。」

先輩はドジですけど…、でも何事にも一生懸命なところとかお陰で色々学べました。
 先輩みたいなマネージャーはどこ探してもいないでしょうね、いい意味でも悪い意味でも。」

「お、俺っ…先輩が俺達のマネージャーで本当によかったです!
 ありがとうございましたっ。でもこれから先輩がマネじゃないのかって思うと…俺…俺…!」

「おま、長太郎。泣きすぎ。…まぁそうだな、みてぇなマネは他にいねぇよな。
 何だかんだ色々助けてもらったしよ…ありがとな。」

「…先輩…今までありがとうございました。」






何、何で急に皆してそんなこと言うの?
確かに今日であたし達の夏は終わったし、最後の大会だったけど
皆今までこんなにあたしに優しいこと言ってくれたことないじゃん!(チョタは別として…)
それなのにイキナリこんなこと…。

やめてよ、ホントに…ホントに…、






「泣けるじゃんか〜!皆のアホぉ〜!」

「あはは、超泣いてるぜのヤツ!」

「残念な顔がもっと酷なったな。」

「うるさいよチビっこと伊達メガネ〜…っ!」






号泣だった。
皆があんまり嬉しいことを言うから、
泣かずにはいられなかった。



どうして皆は、こんなにあったかいんだろう。

最後だから?今日が最後だから?

…ううん、そうじゃない。

皆、ずっと前から優しくてあったかかった。

分かりづらい優しさがあたし達の中ではいつでも溢れてた。

仲間っていいなって思える場所だった。本当にあったかかった。

終わっちゃうなんて思いたくないよ。






あたし達の 氷帝の 夏。






「あたしも、皆のマネージャーになれて本当によかった!今まで本当に、本当にありがとうっ。」






本当に、ありがとう。



涙を止めることが出来ないあたしへ、ジローが笑いながら両手を広げた。






、今までホントありがとな!お疲れ!」

「…っ、ジロー…ッ!」






その胸に思わず飛び込む。
ぎゅっと抱きしめられてあたしはそれに答えるようにジローの背中に腕を回した。






「うはー、出たよバカップル。」

「激ダサだな。」

「暑くて敵わんわ。」

「おいっ、お前らイチャつくなら他所でやれ!」






「まぁEじゃんEじゃんっ。」そう言ってジローは笑う。

…ふと、思った。
ジローはさっきから皆を励ましているけど
自分は泣かないのかなって。









**









夕焼けに照らされて真っ赤に辺りが染まる中。

ゆったりと伸びた自分とジローの影を見ながら、あたしは前を歩くジローの背中に声をかけた。



「…ジロー。」

「んー?」

「あのさ…、ジローは、泣かないの?」

「え?」



キョトンとした顔で振り返る。
その大きな瞳が一瞬揺れた気がした。



「泣かないの?」

「何で?別に俺泣くようなことなかったけど?」

「…だって皆泣いてたのにジローは泣かなかったじゃん。」

「…んー…確かにそう言われてみりゃそうかも。」

「ジロー…?」



ジローはそう言って切なげに微笑んでみせる。

夕陽に照らされたその笑顔は、
綺麗で、
純粋で、
儚かった。

その変化に思わず名前を呼ぶと、
ジローはまたいつものニカッという子供みたいな笑顔に戻った。









、公園寄らねぇ?」









ジローが先にベンチに座ったから
あたしはその隣りに少しだけスペースを取って腰掛けた。



、もうちょいこっち。」

「…、こう?」

「そうそう。」



気恥ずかしくて取ったスペースはジローにとっては逆に邪魔なものだったらしく
結局あたし達の座る隙間は0になった。
ジローは満足げに笑ったあと、あたしの肩に頭を乗せてそっと目を閉じる。

ふわふわの金髪が何だか心地よかった。



「…ジロー。」

「んー?」

「寝ちゃうの?」

「寝ないよー。…多分。」

「多分って。」



思わずクスッと笑うと、目を閉じたままジローは口元に弧を描いた。



暫しの心地よい沈黙があたし達の周りを取りまいて
オレンジに染まった辺りの時間までまるで止まっているかのような錯覚を覚えた。






あたしの肩に頭を乗せたまま、ずっと黙っていたジローが不意に口を開いた。






「…。」

「っ、何?寝てんのかと思ったよ。」

「………あのさ、」

「うん?」



ジローがそっと顔を上げて

あたしと目が合って

思わずハッとした。



そのまま、ぎゅうっとその腕に抱きしめられる。









「…ちょっとだけ、泣いてもE…?」

「…いいよ。」









いつもは何があってもニコニコしてて

太陽みたいに明るくって

元気いっぱいのジローが



この時だけは、肩を震わせて瞳いっぱいに涙を溜めていた。









ふわふわとしたその髪に触れてあたしはジローの頭を撫でた。









「俺さ…、アイツらと一緒にテニスできてよかった。」

「…うん。」

「高校行っても絶対アイツらとテニスやりてぇ。」

「…うん。」

「高2になったら樺地たちも来るし、またあのメンバーで出来るんだよな。」

「…うん。」

「俺、高校行ったらぜってーまたレギュラー復活すっから。…だから、」

「……」









ジローは涙を拭いて、いつもみたいに、ニカッて笑った。









「だから、高校行ってもずっと俺の隣りにいて。」









つられて涙目になって
だけどそれは零れることはなく
笑顔に変わってあたしは大きく頷いた。



そっと唇を重ねて、また笑い合った。


















ジローはまたあたしの肩に頭を乗せて、目を閉じてる。

さっきまでオレンジ色だった辺りはすっかり日も暮れて
だんだんよく見えなくなってきた。



「…ジロー、そろそろ帰ろっか。」

「……。」

「…ジロー…?」

「…がぁ〜…ぐが〜…」

「……嘘でしょ?」



ジローが一度眠りにつくと中々目覚めないのなんて嫌と言うほどわかっていたあたしは、

このあと30分間中々起きない隣りで眠る彼氏と1人悪戦苦闘するはめになった。









傍らで眠る、温かな存在



End

MIDI By : CONSIDER

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Thank you for 150000 hits over !!
For 空 From 【smile×smile】
2008.12.12

お待たせいたしました!
ジローを書くのは久々だったのですが、どうでしたでしょうか?
ジローにならいくらでも肩貸しちゃいますよ!(笑)
企画参加ありがとうございました!