夏、本番。
まるで目の前にあるんじゃないかってくらい近くに感じる大きな太陽、
降り注ぐ容赦ないほどの熱い日光にこめかみを伝う汗が一筋。
アスファルトに覆われた道は日光を照り返し、
植木もないせいで日陰の下を歩くことも出来ない。
この灼熱地獄にいつまでもいたら本当に干物になるんじゃないだろうか。

日本の夏はジメジメしていて本当に嫌になる、
せっかく晴れていても湿度が高いせいで不快指数は増すばかり。

顔も首筋も背中もどこもかしこも汗だくで、歩いてるだけで意識は朦朧とするし…、






「あーーー!無理っ、くそ暑いっっっ!!!」

「バカ!それは言わないようにしてたのに!」






暑い、って口に出したら負けな気がしてた。この地獄に。
寒くもないのに頭の中で「寒いめっちゃやばい寒いー鳥肌立ったわー」って繰り返して
暑いっていう事実を受け入れないように必死だったのに。


隣りを歩く赤い髪の男によってあたしの計画は脆くも崩れ去ってしまった。



「だってよ、暑いもんは暑いだろぃ!?無理!マジ無理!死ぬ!」

「うっさい!暑いって言うと余計暑くなるからやめて!」

「暑い〜溶ける〜…もう無理、さっさとコンビニ寄るぞ!」

「え、ちょっ!?人の話を聞けーぃ!」



ガシッと手を掴まれて、ダラダラ歩いていた状態から急に走り出す。
100mくらい先に見えるコンビニに向かってダッシュするブン太に、
あたしは何とか必死になってついていく。(むしろ引っ張られてる)


2人共汗で手がベタベタしててロマンチックの欠片もない、
汗は余計出てくるし息は上がるしこんな暑い中を走るなんて自殺行為だ…!


ようやくコンビニの前に着いて、駆け込むように店の中へと飛び込んだ。



「っ、涼しい〜!」

「ハァッ、ハァ…疲れた…」



店の中に入った瞬間、体を取りまく気持ちのいい冷気。
上がった息を整えながら、ふぅ、と一息ついてブン太を見ると
Tシャツの襟首らへんを持ってパタパタとさせながら
、アイス食おうぜアイス。」と言ってさっさとアイスコーナーへ向かっていく。

おでこに汗でくっつく前髪をうざったそうにかき上げながら、
たくさん並べられた美味しそうなアイスを見てブン太は目を輝かせた。



「やっべ、めっちゃ美味そー!どれにすっかなぁ。」

「わ、これ美味しそう!新作なんだぁ〜…って、あれ?」

「どした?」



手に持ったのは新作のカップ入りアイス。
値段は230円、ちょっと高め。
小銭あったっけなーなんて思いながらショーパンの後ろのポッケに触れた瞬間、
あたしはある重大なことに気付いて手を止めた。



「……サイフ家に置いてきちゃった。」

「は?マジで?」

「うわー、ショック!」

「いいよ、俺が買ってやるよ。」

「え!?いいの!?」

「おう、お前それでいいの?」

「うん、これにする!」



そう言って手に持っていたアイスを差し出すけど
ブン太は「ちげーよ、こういうのは下にあるヤツの方が冷えてんだよ。」と言いながら
1番下に入っていた同じアイスを取り出した。

わ、せこい。
でも奢ってくれるからそんなとこも好きー。

我ながら単純。
そう思いながら手に持ったままだったアイスを戻す。


ブン太は散々迷ったあげく(食べ物に関しては優柔不断すぎる)、
ハーゲンダッツにしていた。
何でそんなにリッチなんだろうって思ったら
どうやらブン太は昨日お小遣いをもらったばっかりらしかった。
だからあたしの分まで出してくれるんだろう。



「ありがとうございましたー。」



店員さんの声を背に、すっかり汗も引いたあたしたちは再び地獄に向かわなければならない。
入ったときとは真逆の重い足取りで、出口へと向かう。



「あ、ブン太アイスありがとね。明日230円払うから。」

「いらねー。今日は奢り。」

「……ホントにいいの?」

「いいよ、まぁそのうち金がなくなったらに230円のもの買ってもらうから。」

「えー、なにそれ意味ないじゃーん。」

「ハハッ、冗談だよ。」



キィ、とドアを開けて外に出ると
むわっとした嫌な熱気があたしたちに纏わりつく。
あからさまに2人共眉を寄せて、ハァ…と大きなため息をついた。



「さっさと行かないとアイス溶けちまうな。」

「…また走るってこと?」

「もち!俺んちすぐそこじゃんっ。」

「ちょ、待ってよブン太!」



ニカッと笑ってまた走り出したブン太の後を追う。

暑いのは嫌いだけど、こうやってブン太と一緒にいると
嫌いなはずのこの暑さも何だか悪くないなって思えてきてしまうから不思議だ。









**









ガサガサとビニールからブン太は買ったばかりのアイスを取り出すと、
部屋にある小さなテーブルの上にそれを置いた。



「あっついよー!汗やばい!ブン太、クーラーつけていいっ?」

「おう、いいぜー。」

「あと扇風機も回すから!」



走ったお陰で案の定体はまた汗でベタベタ。
クーラーも何もついていなかったブン太の部屋は外とあまり大差ないくらい
むしむしとしていて居心地が悪かった。

急いで部屋にある限りの冷房器具にスイッチを入れるあたしを他所に、
ブン太は目の前にある美味しそうなアイスのことで既に頭がいっぱいみたいだった。



「なぁ、早く食わないと溶ける!」

「あーはいはい。そうだね食べよっか。」

「いっただきまーす!」

「いただきます。」



待ちきれないと言わんばかりに目を輝かせたブン太に思わずクスッと笑って、
テーブルにあるアイスに手を伸ばし、あたしはブン太のベッドに腰掛けた。
蓋を開けて一口頬張ると、ひんやりとした温度と美味しい味が口いっぱいに広がって
あたしは思わず頬を緩めた。



「ん〜美味しい〜!」

「うめー!」



暑いときに食べるアイスってどうしてこんなに美味しいんだろうか、
二口目を頬張りながら心底思った。
火照っていた体が冷房器具も手伝ってどんどん冷えていく。



のも一口くれよ。」

「うん、いいよ。ブン太のもちょーだい?」

「ん。」



お互いのアイスを一口食べあって、思わず微笑み合う。
口内に広がるまた別の味が妙に新鮮で何となく味わってしまった。






暫くアイスを食べながらテレビを見たりしていると、
さっきまでかいた汗が冷えて今度は逆に肌寒くなってきた。
次第にアイスを食べる手がゆっくりになっていき、あと4分の1ほどを残したところで
寒さに耐え切れずあたしはクーラーの温度を上げようと立ち上がろうとした。

…が、あたしの様子に気付いたブン太が声をかけてきて立ち上がれずベッドに座ったままになる。



?やけに食うの遅くね?」

「…や、ちょっと寒いからクーラーの温度上げようと思って。」

「お前これ何度に設定した?言われてみればさみーんだけど。」

「22度。」

「バカか!エコ意識持てよ、電子ちゃんがエアコンの温度は28度って言ってるだろぃ。」

「だって暑かったんだもん。でも今上げようと思ったらアンタが…、つめた!」



太股に走った冷たさにあたしは思わず小さく跳ね上がった。
スプーンで掬って口に運ぼうとしていた溶けかけのアイスが、
ポタリと一滴あたしの太股を伝っていく。

うわベトベトになる!と小さく声を上げて
それを思わず手で拭おうとしたのと、ブン太がそれを阻止するように
ぐっとあたしに距離を近づけてきたのは同時だった。






「っ!何っ…!」

「…あめぇ。」






一瞬何が起きたのかわからなくて、頭の中が真っ白になった。

顔を上げて自分の唇を厭らしく舐めてニヤリと笑うブン太を見て
たった今自分が何をされたのか理解する。
太股にあったはずのアイスの滴がキレイサッパリなくなっていた。



(今、舐めた…!?)



「何すんの!?アンタは犬か!」

「や、何かつい。」

「変態っ!バカ!触んないで!」

「顔真っ赤にして言われても全然怖くねーし。」



Sか…!てゆうかSを超えてドSだコイツ!

顔を真っ赤にして口をパクパクさせるあたしを
ブン太はやっぱり楽しそうに笑いながら見ている。

羞恥心に煽られて落ち着いて座っていられるはずもなく、
勢いよく立ち上がったところで腕を引っ張られて再びベッドに逆戻り。
腕を掴んだまま少し身を乗り出すブン太に嫌な予感がした。






「な、何っ?」

「クーラーいじんなくていい。」

「え?」

「温度上げなくてもこの後勝手に暑くなるから、いじんなって。」






その端整な顔立ちと、
大きくて少しつり気味な瞳があたしの目の前に迫る。

言葉の意味を理解するのにそう時間はかからず、頬の熱がもっと上がった。



「…いや、いやいやいや、エコがどうとかって言ったのはブン太でしょ。」

「28度にしたらぜってー暑くてもっと汗かくじゃん。」

「いいです、別にかくようなことするつもりないんで。」

「…今日はやけに強気じゃん、。」

「今日『は』って何!?いっつもあたし嫌がるじゃんか!」



ダメだ、ダメだ、ダメダメダメ!
この男の目に騙されちゃいけない、
流されたら一貫の終わりだ。
毎回毎回自分の思い通りになると思ったら大間違いだ!

じっと見つめてくるブン太に負けじとじっと睨み返していると、
するりとごく自然に腰へ回ってくる腕に声が上ずった。



「待って!アイス!」

「アイスが何だよ。」

「アイスまだ残ってる!」

「後ででいいじゃん。」

「ブン太アイス好きでしょ?これ食べていいからっ。」

「好き。…でも後でな。」



一瞬今『食べたい』って思ったろコイツ!

手からアイスのカップを取り上げられて、
思わず後ずさると背中に壁が当たる。
逃げ場をなくすように迫るブン太に最後の悪あがき。



「と、溶けちゃうよっ。」

「…お前な、そこは『じゃああたしのことは好き?』って続けるトコだろぃ。」

「んなっ、そんな恥ずかしいこと言わないから!」

「ムード考えろって。…なぁ、言えよ。」

「無理!そんなクサイ台詞言えない!」

、俺のこと好き?」

「え、…好き、だけど。」



(…って!)


何、素で答えてんのあたしのアホ!


口元を手で隠してとっさに目を逸らすと
テーブルにちょこんと置かれたカップの中のアイスがすっかり液体化しているのが見える。
ああもったいない!と心の中で叫んでみるも、
今はアイスより自分のことで精一杯だ。

緊張のせいなのか、上がる心拍数に比例して熱を持つ体は
さっきの肌寒さなど既に感じなくなっていた。



「…で、そこで?」

「っ…」



自分の意思の弱さを呪いたくなる。



結局あたしはブン太のことが大好きで、
その大きな瞳に迫られたら逃げられなくなってしまうんだ。



口元を隠していた手をブン太に掴まれる。
意地悪く笑うその表情でさえ愛しく思えてしまうのだから、重症だ。









「…あたしの、ことは…?」

「好き。……っつーより愛してる」

「…ッ…」









奪うように重ねられた唇はアイスとは正反対に燃えるように熱く、
とろけそうなほどに、甘くて。

ぎゅっと瞳を閉じたまま呼吸すら奪われるキスに
思考回路をすっかり停止させられ、頭の中が真っ白になっていく。
ベッドのシーツが背中を滑る感覚に、
あたしはようやく観念して肩の力をゆっくりと抜いた。






「好き。……っつーより愛してる



End



MIDI By : Amor kana

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Thank you for 150000 hits over !!
For 奏 From 【smile×smile】
2008.7.11

大変お待たせしました!
とっても甘い雰囲気のお話でしたがどうでしたでしょうか?
似非ブン太ですみません。(笑)
企画参加ありがとうございました!