苦くて甘い あたしの 初恋 。



この恋に気付くのがもっと早ければこんな気持ち、知らなくてすんだのに。
切なくて、切なくて、息が詰まりそうだ。



亮のことが好きだって気づいた。
小さい頃から一緒にいて、どうして今まで気付かなかったのか不思議に思うくらい
本当に不意な出来事だった。









「亮!」

「あ?何だよか。」

「何だよって何。…あ、そんなことよりさ!今日も亮ん家に行くね!」

「はぁ?何でだよ?」

「地理の宿題出ちゃってさー!お願い!一緒にやって!」



放課後、廊下で見覚えのあるその後ろ姿を見つけて呼び止めれば、
めんどくさがりながらも何だかんだ振り向いてくれる。
部活に向かう途中の亮を呼び止めて、あたしは両手を合わせた。

隣りに立ってあたしと亮の話が終わるのを待っているが、
あたしと亮を交互に見ていた。



「……しょうがねぇな。明日チーズサンド1つ奢りで宿題見てやってもいいぜ。」

「え、ちょ!何その交換条件!男なら男らしく引き受けなさいよ!」

「じゃあ教えてやらねぇ。」

「わ、わー!うそうそ!奢るから教えて下さい!」



必死になって引き止めるあたしを見て、亮は笑うと
あたしの髪をクシャッとしてから歩き始めた。



「決まりな。いつもの時間くらいに来いよ。」

「―うんっ。」



いつもと何も変わらなかった。

この時まであたしの中で、亮はただの『幼馴染み』でしかなかったのに。

あたしと亮のやり取りを、隣りでが少し複雑そうな顔で見ていたことにも気付かなかった。









**









いつもと変わらぬとの帰り道。
だけどその日のの様子は、今考えてみればどことなく余所余所しかったかもしれない。



ー。」

「ん?」

「…今日もさ、宍戸の家に行くの?」

「え?うん、行くよ。地理なんて亮に聞かなきゃわかんないしさ。」

「…いいな、は。」

「え?」



は少し切なそうな顔をして、もう一度あたしを見た。
その瞳は何故か力強く、普段見ないその表情にあたしは一瞬立ち止まる。






「あのね、
 …私、宍戸が好きなんだ。」

「……え?」

に言おうかどうかずっと迷ってたんだけど…友達だから言っておくね。」

「は?え…え、ちょ、ちょっと待って。」






展開についていけなかった。
あたしはに「待って。」と手で制すると
混乱する頭の中を何とか整理しようとじっと考え込んだ。
そんなあたしを、は何も言わずに見ている。


が、亮を、好き?
…全然知らなかった。
そんな素振り全然なかったし、あたしの気持ちなんて気付かないで
いっつも亮の話しばっかりしてなかった…?
本当に?いつから?
…いつから、は亮のことが好きなの?



「……それ、いつから?いつから亮のこと好きなの?」

「…いつからかな。ハッキリ自覚したのは…体育祭があった時くらいかも。」

「そ、うだったんだ…全然気付かなかった。」

「ごめんね、黙ってて。中々言い出せなくて…、宍戸と仲良いしさ。」

「……」



切なそうに笑う
あたしの心臓は、何故かちくりと痛んだ。

は意を決したようにあたしを見て、言葉を発した瞬間
あたし達を取り巻く時間が足を止めた気がした。



は…宍戸のことどう思ってるの?」

「え…?」

「好き?それとも好きじゃない?」

「――。」



初めて、だった。

初めて亮のことで、好きか、そうじゃないか、誰かに聞かれた。

今までそういう対象として考えることがなかったから…頭の中を整理出来なくて。



好きか好きじゃないかと聞かれれば好きに決まってる。
…だけどこの気持ちはが聞いているものとは違う気がする。
わからない、わからないんだけど…。



「もし、好きならそう言って?遠慮しないでさ。」

「……。」

「ん?」

「…あたし、今まで亮のことそうゆう風に意識したことがないから
 何て言えばいいのかわかんないんだけど…、」

「……。」

が言う『好き』とあたしが言う『好き』は…違うと思う。」

「…そっか。」



そう答えるので精一杯だった。

自分の鼓動がまるで辺りに響いているかのように、
緊張で高まる鼓動に耳を塞ぎたくなった。

はそう呟いてからそっと目を伏せると、ゆっくりとあたしに言った。



「それなら…由衣にお願いがあるんだけど…、」

「え…?」

「…宍戸と私も話せるようになりたいから、協力してもらえない?」



親友の恋を応援するのは当たり前のことだと思う。
だけどどうしてだろう。
その相手が亮だからなのか…心のどこかに靄がかかったみたいにすっきりしなくて、
に笑いかける自分の笑顔が普段とは違う気がした。






「いいに決まってるじゃんっ。」






このモヤモヤの正体は、知ってはいけない。
考えちゃいけない。









**









「…由衣。」

「っ、亮…。」



朝、下駄箱のところで後ろから聞きなれた声に呼び止められた。

そっと振り向けば案の定亮がいて一瞬合った目をすぐに逸らして上履きを履いた。



「お前昨日自力で出来たのかよ?」

「あー…うん。何とか。」

「ったく、いきなり『やっぱ今日行かない』とかメール来たから驚いたぜ。
 珍しいこともあるもんだと思って。」

「ちょ、あたしだってやろうと思えば出来るんだよ。」



そう言ってぎこちなく笑うあたしを、亮は見過ごさなかった。

眉を少しだけ寄せて、あたしをジッと射抜くその瞳が
あたしの心臓をおかしくさせる。



「…お前、何かあったろ?」

「え?な、何で?」

「何かいつにも増して変だぜ、今日。」

「なっ、いつにも増してってどうゆう意味……―あ、。」



亮の聞き捨てならない発言に思わず食いかかりそうになった時
視界に入ってきたの姿に思わずハッと我に返った。

今、登校して来たらしいはあたしと亮を見てから
少しだけぎこちない笑顔を浮かべた。



「おはよ、由衣。宍戸。」

「…お、はよ。」

「はよ。…で、。お前どっか体調でも…

「あーもううっさいな!あたしは別にどこもおかしくありません!」



せっかくのからの挨拶を亮は軽く返すと
すぐにあたしの顔を覗きこむようにして見て来る。

その光景をに見られるとまずいと頭で考えるより先に
体が反応したのか、反射的にあたしは亮の前から逃げるように歩き出した。



何なの。
何か変だ、あたし。
が亮のこと好きだって知ってから
やけに亮のことを意識しちゃう。

確かに亮の言う通りあたしはおかしいのかもしれない。
今までのように普通に亮の目を見て話すことも出来ないし
心臓もやけにうるさくて、何だか苦しい。

亮はの好きな人。
協力しなきゃいけないのはわかってる。
わかってるのに、変に意識してしまうのは何故…?



早足で2人の前から去ろうとしたあたしの腕が、
背後から伸びてきた亮の手に掴まれたのは間髪入れぬ出来事だった。






「おい、!」

「――っ!」






亮の声がして
腕を掴まれて
後ろを振り向かされた瞬間。


カァッと頬が熱くなって、経験したことがないくらい
心臓が一気に脈拍を上げた。


顔を真っ赤にするあたしを見て何かを確信したのか
亮はあたしの腕を掴んだままグイッと引っ張ると
教室とは正反対へと歩き出した。

戸惑いから思わず目を丸くする。






「っ!?亮っ…

っ、のこと保健室連れてくから担任に上手く言っといてくれ。」

「え…、うん、わかった。」

「ちょ、亮!あたし別にどこも悪くないよ…!」






あたしの言葉を無視して亮はグイグイとあたしの腕を引っ張っていく。
まさかあたしが亮の力に敵うはずもなく、
精一杯力をこめての反抗も全く効果を示さない。

ドクドクと心臓がうるさい中
の方を見れば

切なそうな笑顔を浮かべるが、そこにいた。



(ごめん、…っ)



この時あたしが感じた「ごめん」は一体どういう意味だったのか。






掴まれたままの腕が熱かった。

亮の背中を見つめて高鳴る鼓動が…、
もう後戻りは出来ないと言っているみたいで、思わず唇を噛み締めた。









**









保健室に着くと先生はいなくて
亮は「何だよ出張かよ」とブツブツと言いながら
相変わらずあたしの手を引っ張りながら中に足を進めていった。

そしてあたしを一旦椅子に座らせると、心配そうに顔を覗きこんできた。



、お前熱でもあるんじゃねぇか?」

「……。」

「…?」

「……。」



ゆっくりと首を横に振ってあたしは俯いた。

頭の中に甦るのは…
昨日のの言葉と切なそうな表情。









は…宍戸のことどう思ってるの?』









に言われるまで気付かなかった。
あたしは亮のこと何とも思ってないわけじゃない。
この「好き」はの言う「好き」と何ら変わりのない…






恋という感情。






どうして、今更気付いたんだろう。

ずっとずっと亮と一緒にいたのにどうして今更?

どうして…の亮への気持ちを知ってから、自覚してしまったんだろう。






「…亮…」

「…どうした?何かあったのか?」

「あ、たし…あたし、」

「…?」






今更あたしにはどうすることも出来なかった。

のことを応援することも
を裏切ることも。

今になって亮のことが好きって気付いても、何にも出来ない。



どうしてもっと早く気付かなかったの?

今更のことを裏切ることなんて出来ない。






…?なっ、何で泣いて…!」

「っ、〜…ごめ、ん…ごめんっ…」

「はぁ?」






を裏切る勇気も
亮に自分の思いを伝える勇気もないあたしは

今更気付いた初恋に情けなく涙を零すことしか出来なくて。

戸惑ったように「何があったかわかんねぇけど、頼むから泣くな。」と言い
頭をそっと撫でてくる亮の優しさにまた涙が溢れて、
ぽろぽろと零れ落ちる涙が制服のスカートに染みを作っていった。






苦くて甘い あたしの 初恋。


もっと早く自分の気持ちに気付いていれば
こんな気持ち知らなくてすんだのに。


裏切ることなんて出来ない。

だけど今もこうしてあたしの髪に触れる亮の大きな手に

心臓はドクンドクンと脈打ち、好きって気持ちが溢れてく。






切なくて苦しいあたしの初恋。



ただただ今は泣くことしか出来なかった。






End



MIDI By : 89



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Thank you for 150000 hits over !!
For ちお From 【smile×smile】
2008.4.19

宍戸が似非っぽくてごめんなさい。
あまり絡みもありませんでしたが、初恋ということで
幼馴染みである宍戸への気持ちを自覚する点を今回は描いてみました。
企画参加ありがとうございました!